ちなつの収穫|盛岡りんごとあなたをつなぐ物語



「苦労して育てているから、ちなつはかわいく思えるんです」と副島さんは言う。

成熟しても実が小さいちなつは、きちんと摘花をし、早めに摘果をして、成長を促す必要がある。
色がつきにくいという特徴もあるため、余分な枝は切り落として、果実に日光が当たりやすいようにしてあげることも大事。

「真夏に採れる極早生のりんごは、温度変化で一気に成熟するので、収穫が遅れないように管理して、ちょうど良い時期に収穫することがポイントです」。

つまり、ちなつは最後の最後まで手がかかるりんごってことだ。

「この実は今日が収穫のタイミングです」と副島さんが指さす先のちなつに目をやる。



見慣れた「ふじ」とか「ジョナゴールド」といった有名どころに比べると、真っ赤ではなくやさしい赤。おしりの部分は色が薄く見える。

「ちなつの収穫は『地色が抜けたら』と言われているんですよ」と教えてもらい、木になっているちなつをいくつか見比べてみる。

日が当たりにくいお尻の部分の肌の色が、緑色から白っぽくなったころが収穫の適期。
透明感のある白に変わったころ、と言うけれど、こんなにじっくりりんごを見たことがなかったので、難しい。
緑から白に変わるころがベストタイミングで、そこから黄色に変わり始めてしまうとちょっと遅いのだという。



てっきり、実全体が赤くなるころが良いのかと思っていたら、全体が赤く色づいたら適期というわけではなく、重要なのは地色が白くなること。

「収穫作業は、気温が上がる前の午前中のほうが良いんです」。

果実の中の温度が上がってから採ると、日持ちしにくくなるんだって。
それを聞いたら、のんびり眺めてばかりいられない。

副島さんは、さっき指さしたちなつの実をはさみで切り、私の手のひらに置いた。
たしかに、毎年冬に食べるふじと比べると小さくて、かわいらしい。
「さあ、食べてみましょう」、そう言うと、収穫したばかりのちなつを私のために切ってくれた。



初めて食べるちなつは、皮付きだ。
「ちなつは皮が薄いから、皮ごと丸かじりするのに向いています」という副島さんの言葉を聞きながら、まずひと口。

すっぱーい! いや、違う、甘酸っぱい!
最初は、酸味を感じるけれど、たっぷりの果汁がとってもさわやかですっきりしていて、いくらでもいけちゃいそうな甘酸っぱさ。
副島さんが言うように、丸かじりするのがちょうど良い適度な味のバランス、そしてちょうど良い大きさだ。

これが、ちなつの味なんだ!
副島さんたちが盛岡の研究所で30年近くかけて開発したちなつは、真夏の盛岡にぴったりのさわやかなりんごだった。
感激してそう伝えると、副島さんはほおを緩めたように見えた。

勧められるまま2片目のちなつを食べている私に副島さんは、ひとつのりんごの中でも味が違うのだということを語り始めた。
芯に近い真ん中よりも皮に近い方が甘いこと、さらに、上下でも味が違うこと。
上の方が味が薄く、おしりに近くなるにつれて味が濃くなること……どちらも初めて聞く話だった。
40年りんごの研究を続け、10年以上りんごを育てる副島さんのりんごへの知識は留まるところを知らない。

話をしながら副島さんはふたたび、ちなつの木に近づくと、お尻の色を確認しながら、収穫を始めた。
1個、2個、3個……、ひとつひとつ丁寧に収穫用の箱の中に置いていく。
「今日はこのぐらいですね」。
副島さんがはさみを仕舞い、人生で初めて間近に見るりんごの収穫、それも自分でアップルパイをつくるためのりんごの収穫が終わった。


どれだけ伝えても伝え切れないお礼の気持ちをなんとか言葉にして、ちなつを抱え副島さんの畑を後にする。
家に戻りキッチンへ。
ちなつが手に入ったらすぐにパイを焼けるように、調理道具などの準備をしてから出かけたから、あとはつくるだけ。

この前のシナノゴールドで試作した経験を踏まえながら、シナノゴールドとちなつの味の違いを思い出しながら、砂糖やバターの量を調整。煮詰めていく。

高校3年間の千夏との思い出、ふたりで通ったあのケーキ屋さんとお祝いのアップルパイ……、2人で過ごしたさまざまな時間がよみがえる。
進学して、コロナ禍になって、ぜんぜん思うように会えなかったけれど、千夏は今でも親友だ。

千夏が結婚するのがさみしくないと言ったらちょっと嘘になるけれど、盛岡生まれのりんご「ちなつ」を知って、その実が大きく成長するのを見ているうちに、どこにいたって、千夏と私の友情は変わらないって、そう思えるようになった。
だから、ちなつのアップルパイに親友・千夏のこれからの幸せを願う気持ちを込めた。

頭の中ではいろんな出来事を思い出しながらも、りんごを煮詰める小鍋をぎゅーっと凝視する。
「今だ!」水分がなくなり、バターとりんごの何とも言えない香りがさらに強く立ってきたのを感じ、火を止める。
あのケーキ屋さんのアップルパイを思い出しながら、りんごを包んだ生地の形を整えて、温めたオーブンの中へ。

「美味しいアップルパイになりますように……」、私はひとり目を閉じて、オーブンを前に手を合わせた。




 

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