「Japan Morioka」 りんごの木のこと |盛岡りんごとあなたをつなぐ物語




盛岡の3月下旬は、春、というよりも、冬の終わりと言う方がしっくりくる。

東京から戻って間もない私には、盛岡の空気はいっそう冷たく感じられて、ようやく凍てつく寒さが緩み始めてほっとする。

りんごの木には、実はもちろん、葉1枚もついていない。
強い風が吹くと、細い枝が震えるみたいに揺れて、なんだか寒そう。
考えてみると、りんごの果実は身近だけれど、りんごの木をこんなにじっくり見るのは初めてだ。

 

りんごは剪定で7割決まる

副島さんの案内でりんご園を歩く。
りんごの木と木の間に枝が積まれている。
「これは剪定したりんごの枝。剪定によって、りんごの品質と収穫量の7割が決まるんです」と副島さん。
まだ、花も実も付いていないこの時期の剪定作業がそんなに重要だなんて!
秋冬に実を収穫して、まだ間もない時期からもうすでにりんご作りは始まっているんだ。



そういえば、副島さんのりんごの木は植えてからどのくらいのものなんだろう。

尋ねてみると、ちょうど10年前、研究の仕事を定年退職し、農業を始めた時に植えた木が大半だと言う。
副島さんは、日が当たる時間が長く、緩やかな傾斜のあるこの土地を気に入り、荒れ地だったところから小型重機を使って1人で開墾し、20種類以上のりんごの苗木を植えた。
それから10年、当時植えたりんごの木は2m以上に育ち、季節になれば立派な実を付ける。

 

こぶりな木の秘密 「わい化栽培」

副島さんのりんごの木は、品種によって異なるものの、大きいものでも2m〜2m50cm程度。
背伸びをすれば木のてっぺんまで手が届きそうなサイズの木が並んでいる。
これは、木がまだ若いからというだけではなく、あえて小ぶりな木になるように仕立てているから。

「このような育て方を“わい化栽培”と言って、木を大きくしないことによって、作業がしやすくなり、収穫できるまでの期間も随分短くなりました」と副島さん。

その昔は、高さ20mほどにまで成長する木を剪定して5mぐらいに整え、たくさんの実を付けさせてたそうだけれど、わい化栽培だと木は成長しても3mほどにしか育たない。

「木を大きくしない」ってどういうこと? 不思議に思って聞いてみる。

実は、私たちが“りんごの木”だと思っている木は、1本の木ではなく、2種類(場合によっては3種類)の木を接ぎ木したものなんだって!

“台木”という木の土台となる若い木に、ふじや紅玉など実をならせたい品種の“穂木”(枝)を挿して固定し成長させる。
台木と穂木、それぞれの形成層を接着することで、細胞分裂が盛んな形成層同士がくっつき、次第に1本の木になる。



穂木の成長を抑える“わい性台木”を利用することによって、木の高さを抑える技術、それがわい化栽培。この方法によって、脚立に上らなくても作業できる範囲が増えて生産性が上がり、さらに、接ぎ木してから3年ほどで収穫できるようになるという画期的な方法なのだ。
生い茂る葉が減るため、ひとつひとつのりんごの実への日当たりが良くなるというメリットもある。

もとはイギリスで開発されたわい性台木が日本でも使われけれど、日本に適した台木の開発を目指して研究が進み、1990年代後半に国産の「JM台木」が誕生。
「JM」はJAPAN MORIOKA の略で、副島さんが長年勤めた農研機構東北農業研究センター(盛岡市)が開発し、今では日本各地の生産現場で使われている台木です。
そしてなんと「JM台木」と命名したのは副島さん! 副島さんは自ら開発に携わってきたJM台木の価値を、今は生産者として自分で証明している。

研究者時代は、さまざまな品種のりんごを掛け合わせ改良するため、1日100本以上、接ぎ木をすることもあったという副島さんは、現在もその知識と経験を生かして、JM台木の普及にも取り組んでいるんだって。

 

千本切って一人前、奥深き剪定の世界

1月から選定作業を進めてきた副島さん。
りんごの芽が膨らみ始めるまでに剪定作業を終わらせるのが毎年の目標。

剪定する時に意識しているのは、枝と枝の間に立って木の手入れをしやすいような枝ぶりにすることと、葉や果実への日当たりを良くすること。

上から見て、アルファベットの“X“が2段重なっているような枝の広がりが理想形だそう。

リンゴの剪定は「千本の樹を切らないと一人前になれない」と言われるほど奥が深く、農家の経験や研究成果に基づいてさまざまな考え方があり、副島さんも日々、研究を続けている。




副島さんは「りんごの枝20〜30cmごとにひとつの実をならせるのが理想」だと言う。
ふじの場合だと、ひとつの実を生育させるために60枚程度の葉が必要だと言われているそう。
たくさんの葉が光合成をし、その栄養を実に集中させているのだ。

りんごの木の幹から出ている枝を“主枝”、さらにそこから脇に出ている枝を”側枝”(そくし)と言い、枝の元に近いところになる果実の方が、栄養が届きやすく、品質が良くなりやすい。

剪定は、単に枝を切る作業ではなく、りんごの枝のどのあたりに実をつけさせたいかという収穫の際の木の姿を思い描きながら、枝を残していく作業みたい。
美味しいりんごを作る作業は、前年の収穫直後から始まっている。

さらに、枝は剪定して終わり、ではない。
枝が好き放題、伸びていかないよう、水平に近い向きになるようロープで固定しておく。
そして、花芽が付き始め、枝の伸びるスピードが穏やかになってきたら、ロープをほどいてやる。
りんごの木は自然の中で育つものではあるけれど、どれだけ美味しいりんごを作れるかは、農家さんの腕や手間の掛け方次第なんだな。


 

「ちなつ」との対面

副島さんが話してくれるりんごの話にすっかり夢中になっていたけれど、副島さんはただのりんご農家じゃない。
「ちなつ」生みの親なんだった。
そしてこの園地のどこかに「ちなつ」の木があるはず。

副島さんにちなつを見たいとお願いすると、その木の前に連れて行ってくれた。
高さは2mくらい、ほかの木と比べて特に変わったところのない木。
親友の千夏とおなじ名前のりんごはなんだかちょっと特別な気がしていたけど、そんなことはない。

「普通の木なんですね」とつぶやいた私に、副島さんはスマホを取り出して去年収穫したちなつの実の写真を見せてくれた。

「ちなつの実はこぶりで皮が柔らかいから、そのまま皮ごと食べられます。一番の特徴は、収穫時期が真夏ということです。8月に来れば、収穫直前のちなつを見られますよ」。

産直でおかあさんに聞いてはいたものの、8月のりんごってちょっと想像がつかない。

驚く私に「ちなつのように夏に採れる品種を“極早生”(ごくわせ)と言うんです」と副島さん。
今は葉もついていないこの木に、4ヶ月後には立派な実がなる。

千夏のためにちなつでアップルパイを作るなら、準備を急がないと。

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